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「北京オリンピックを振り返って3 たとえアウェイでも」

今回の北京オリンピックで目立ったのは、地元中国選手への応援の熱烈さでした。自国の選手に声援を送るのは当然のことですが、応援の一致団結振り、応援する声のボリュームの大きさ、その持続力など日本人のエネルギーを遥かに超える凄さでした。

「ジャーヨウ!ジャーヨウ!ジャーヨウ!」(加油!加油!加油!「力一杯頑張れの意味を持つ応援の言葉」)という声が会場の隅から隅まで響き渡り他の音は全てかき消されてしまいます。と言うことは今回51個の金メダルを含め100個のメダルを中国は取ったので、あちこちの会場で凄まじいジャーヨウコールが湧き上がったことになります。中国の選手と対戦した他の国の選手たちは大変なアウェイ感を持ちながら戦ったということになります。

8月16日、女子レスリング55kg級の試合に臨んだ吉田沙保里選手の1回戦、2回戦、そして準決勝までの戦いぶりを、北京のテレビ東京のスタジオで試合会場の中国農業大学からの中継映像を交え日本に生放送しました。金メダルに最も近い選手と言われていた吉田選手ですが、1回戦、2回戦は序盤の動きに本来の鋭さが見られず、これだけのレベルの選手にも多少なりとも連覇への重圧があるのだろうかと感じたものです。

ところが、私たちの生放送の最後の準決勝ではカナダの強豪バービーク選手を吉田本来のレスリングで圧倒して決勝進出を決めてくれました。冷静に考えてみると、1回戦、2回戦は相手の力量なども十分に考えて、自らがミスをすることがないよう細心の注意を払って相手を上手に処理するという戦いを展開しただけで、特に何かで苦しんでいたわけではなかったのです。そして生放送を終えて、私たちは吉田選手の応援に試合会場に出向きました。決勝の対戦相手は何と地元中国の新鋭許莉選手でした。

対戦前の私の予想では、力量においてもキャリアにおいても何処を比べても吉田圧倒的優勢と感じていましたが、問題は会場の99%が熱烈加油コールに包まれてしまうことです。それによって若い許莉選手が本来の力以上のものを発揮したら意外に許莉選手善戦ということもあり得るのかなという感じもしてきました。

3位決定戦が終わって、吉田選手と許莉選手がリングに上がった瞬間から館内は耳をつんざくばかりの許莉選手を応援する加油コールが湧き上がりました。新鋭の許莉選手も声援に後押しされるように吉田選手に良く食い下がって第1ピリオド終了。

館内の大音声の加油コールの中、第2ピリオドは開始早々から吉田選手の動きが鋭さを増してきました。元日本チャンピオンだったレスリングの師である父栄勝さんをしても沙保里のタックルだけは飛び込んでくるタイミングを察知することは誰にもできないと言わしめた、吉田選手の猛烈に素早いタックル。まるで、カメレオンが一発で獲物を舌に巻き込むような感じだと言われた吉田のタックルがついに許莉選手の右足を捉えました。本当に見事な片足タックルで、すぐさまバックに回り腕を取ってあっという間のフォール勝ちとなりました。

あまりの素早さに中国の応援団は呆気にとられ瞬間言葉を失い、館内で一体何が起きたのだという驚きが支配して、音が無くなりあれだけ熱狂の大音声につつまれていた体育館に何秒間かの静寂が訪れたのです。正直中国の人たちも吉田選手の強さに呆れ、舌を巻いて黙るしかなかったというようでした。これほどのアウェイの状況の中で自分の力をきっちり出し切った吉田選手に私自身頭が下がりました。そして涙が滲んでくるのを感じました。

表彰式では中国の人たちも圧倒的な強さの吉田選手に拍手を送っていました。銀メダルの許莉選手にも私は健闘を称えて一際大きな拍手を送りました。すると、1列前の中国の若者が振り返って、「中国の選手に大きな拍手を送ってくれて有難う」とにっこり微笑みながら声を掛けてくれたのです。些細なことでしたが一人の日本人と一人の中国人の間に僅かばかりの心の交流が生まれた感じがして嬉しかったです。

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