「プラカードベアラーとして③」

今回の東京オリンピック・パラリンピックは史上初の無観客の開催となった大会でした。
勿論、開会式も無観客で行われました。

新国立競技場はご存じの通り建築家の隈研吾さんが設計をした建物です。
ニュースでも取り上げられましたが、観客席は観客がいるように膨れ上がるデザイン設計となっている会場です。

さて、開会式前によく聞かれたことは、「どこの国のプラカードを持つの?」ということでした。
しかし、それは前日まで我々にも知らされなかったのです。
プラカードベアラーの中でも、自分がどこの国を持つか知りたくてしょうがないという人がいましたが、
どの国の担当になろうともしっかりとベアラーの役割を果たすのが我々の使命です。
従って、私は皆に言葉を投げかけました。
『誰がどこの国を持とうが、関係ない。世界は繋がっている、世界は一つ!』
怪訝な表情をしていた人も次第に理解を示してくれたようで、団結力が強まったのを感じました。

さぁ、いよいよと迫ってきた出番。
私が持つ国の順は先述した通り、
①英領バージン諸島②スイス③パレスチナ④ルーマニアです。

入場が進み、遂に出番がやってきました。

選手団の前に立ち、プラカードを高く掲げます。
自分のもう一つのオリンピックストーリーが始まりました。

選手としてではないものの、元オリンピアンのプライドを持って家族や支えてくれている方々に向けて歩く。
そして何より開会式への参加を13年待った自分のために堂々と歩こう。そう心で唱え出発しました。

競技場内に入ると、リハーサルとは異なる照明や音響、そして配置されている装飾品の変化と、とても新鮮でした。
また、既に入場しているアスリートたちが入場してくる人たちを歓迎する仕草や、それぞれの国のダンスなどをしてとても華やかでしたし、
無観客と感じさせない観客席も、まるで超満員ではないかと思うくらいの光景が目の前に繰り広げられていました。

「これがオリンピックの始まる瞬間なんだ」
ただただ必死にプラカードを持って選手団を先導し、一歩一歩噛み締めるように歩きました。

言葉では表現できないこの思い。

後に妻から言われたことですが、
「先導するたび泣いていたね。子供たちもテレビの前で、パパ泣いてるーって言ってたよ」と。
わが子にとって誇れる父親になれたかどうかはわかりませんが、未来ある子供たちにオリンピックのレガシーを伝えられたのではないかと感じます。
レガシー、それはスポーツに親しむことで得る喜び、爽快感。友情を大切にすること。最後までねばり強く最善を尽くすことの大切さ。

今回、プラカードベアラーとしてオリンピックの始まる瞬間に立ち会うことができて、本当に嬉しく思います。
オリンピックは東京で終わりではないので続く限り、
「人に尽くす、社会に尽くす」は言い過ぎかもしれませんが、世界の平和のために尽くすと言う気持ちを持って日々過ごしていきます。

引き続き、全世界のアスリートの応援をお願いします!

Smile
Sho Uchida

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